購買時の瞬間ストレスが与えるショッパー の行動変容 ―ニューロサイエンスのアプローチによる売場改善への示唆―『流通情報』2026.1(No.578)に掲載

中村 博(博士:経営学,公益財団法人流通経済研究所 理事/中央大学大学院 戦略経営研究科 教授),杉本 ゆかり(博士:経営管理,立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授)による論文「購買時の瞬間ストレスが与えるショッパー の行動変容 ―ニューロサイエンスのアプローチによる売場改善への示唆」が『流通情報』2026.1(No.578)に掲載されましたのでご報告いたします.


要旨(Abstract)

本研究は、購買行動中に生じる「瞬間ストレス(Situational Stress)」を脳波(EEG)により可視化し、ストレスがショッパーの行動変容に与える影響を明らかにすることを目的とする。従来の購買研究は価格・ブランド・機能といった合理的要因に焦点を当ててきたが、実際の売場では混雑、欠品、レジ待ち、視覚的負荷などの環境要因が瞬間的な心理負荷を生み、購買行動に影響を与えている。本研究では、こうした購買時に発生する短期的ストレスを「瞬間ストレス」と定義し、ニューロサイエンスの手法を用いて実証的に検討した。

実店舗における購買実験を実施し、ショッピング中の脳波データを計測・分析した結果、瞬間ストレスは主に①棚前での選択時の迷い、②嗜好品購入後に生じる罪悪感、③レジ待機による時間損失の場面において顕著に上昇することが確認された。これらのストレスは購買行動を一時的に抑制する一方で、意思決定の加速やブランドスイッチを誘発する「行動駆動型ストレス」として機能することが示唆された。また、ブランドスイッチは「認知的不協和→発見の快感→不協和の解消→安心」という感情プロセスを伴う可能性が示された。

本研究は、購買時ストレスの神経的構造を明らかにするとともに、ストレスを単なる阻害要因ではなく売場体験設計に活用すべき要素として位置づけた点に学術的・実務的意義がある。今後はストレスの抑制および活用を踏まえた売場設計指針の構築が期待される。